
オーストラリアでは、中央銀行(RBA=豪準備銀行)による政策金利の引き下げが大きなニュースとなっています。
4.35%から4.10%へと、0.25ポイントの利下げが実施されたのは2020年11月以来、実に約4年ぶり。この決定は、住宅市場をはじめとするオーストラリア経済全体に大きな転換点をもたらす動きとして注目されています。
今回の利下げには、主に以下の4つの背景があると考えられており、不動産市場の再活性化の兆しも見え始めています。
今回のテーマでは、RBAの利下げがオーストラリアの住宅価格に与える影響について、
現地の不動産専門調査機関「CoreLogic(コアロジック)」および「Domain(ドメイン)」の最新レポートをもとに詳しくご紹介します。
今回の利下げの背景:4つの重要な要因
今回の政策金利引き下げには、以下の4つの要因が背景にあると考えられています。
1. 経済成長の鈍化 グローバル経済の不透明感が続く中、オーストラリア国内においても個人消費の低迷が顕著になっており、経済成長が鈍化していることが背景にあります。 2. インフレの調整局面 パンデミック後の急激なインフレを抑制するために、ここ数年間はオーストラリアで利上げが繰り返されてきました。しかし現在はその調整局面に入り、金利政策も転換期を迎えています。 3. 住宅市場の再活性化 長期間続いた高金利により、住宅購入へのハードルが高くなり、市場の動きは鈍化していました。今回の利下げは、住宅市場に再び活気を取り戻すための重要な政策対応と見られています。 4. 景気回復への後押し 内需の刺激を通じて景気全体を底上げすることも、今回の利下げの狙いの一つです。企業活動や雇用環境への好影響を見込みつつ、より広範な経済回復に向けた後押しが期待されています。 |
今回の政策金利引き下げを受けて、オーストラリアの4大銀行(CBA、NAB、ANZ、Westpac)も、住宅ローンなどの貸出金利をそれぞれ0.25%引き下げました。こうした金融環境の変化により、シドニーやメルボルンをはじめとする主要都市では、住宅価格が再び上昇に転じる兆しが見られています。2024年2月の全国平均住宅価格は前月比で0.3%上昇し、3か月連続で続いていた価格下落に歯止めがかかりました。
- メルボルン、ホバート:+0.4%(最大の反発)
- シドニー、アデレード、パース:+0.3%
- ブリスベン、キャンベラ:+0.2%
金利が下がったことで住宅ローンの申請件数が増加し、住宅の購買意欲も徐々に回復している状況です。
住宅ローン負担率が高水準に:各都市の実態とは?
一方で、住宅価格の再上昇は、特に初めて住宅を購入しようとする人々(ファーストホームバイヤー)にとって、大きな経済的負担となりつつあります。各都市での住宅ローン負担率、つまり戸建て住宅を購入した際に住宅ローンの返済が世帯所得に占める割合は、依然として高水準にあります。以下は、CoreLogicのデータに基づく、主要都市ごとの住宅ローン負担率の実態です。

シドニーをはじめとする主要都市では、全国平均を上回る住宅ローン返済負担が発生しており、家計への影響が一層深刻になりつつあります。以下は、各都市でユニットやマンションを購入した場合の、住宅ローン返済が世帯所得に占める割合を示した最新データです。(出典:CoreLogic)

ユニットやマンションは比較的手が届きやすいものの、それでもローン返済の負担は多くの都市で重く感じられています。
オーストラリアで賃貸を続けるべきか、それとも購入すべきか?
「このまま家賃を払い続けるべきか、それとも思い切って家を買うべきか?」オーストラリアに住む多くの方が、今まさにこの問いに直面しているかもしれません。
現在、家賃の上昇ペースはパンデミック直後に比べてやや落ち着いてきてはいるものの、依然として高水準にあります。
たとえば、シドニーでは年間の家賃上昇率が2.6%と報告されており、長期的に見れば賃貸にかかる負担は確実に増しています。 そのため、「上がり続ける家賃を払い続けるよりも、価格が比較的安定しているユニットやマンションを購入した方が将来的に得策だ」と考える人も増えています。
不動産価格は今後どう動く?市場の見通し
今回の利下げは、オーストラリアの不動産市場に対して短期的な刺激となりましたが、専門家の間では「過去のような急激な価格上昇にはつながらない」とする慎重な見方も広がっています。
その背景には、政策金利が依然として4.10%と高水準にあり、住宅ローンの審査基準も厳しいままであることから、買い手の購買力には引き続き制限がかかっている点が挙げられます。
とはいえ、今後さらに利下げが行われる可能性も指摘されており、オーストラリアの4大銀行もそのシナリオを織り込みつつあります。
このため、今後の金利動向や経済環境次第では、住宅価格が再び上昇基調に転じる可能性も否定できません。不動産市場の動きには、引き続き注意深く目を向けていく必要があります。
コメント